アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎は、長い間繰り返していく皮膚の炎症で、かゆみと湿疹が主な症状です。
この病気は特に子どもに多く見られますが、大人になってから発症することもあります。アトピー性皮膚炎は比較的近代の病気で、都市化が進んできた清潔な生活環境により発症する患者さんが年々増えてきていることが知られています。最近の研究で、アトピー性皮膚炎の原因について新しいことがわかってきており、それにより新しい治療薬も次々と登場してきています。
強い痒みで、夜も眠れない、日常の生活に支障がある、そんなお悩みを少しでも改善するように当院では様々な対策、治療のご提案をしております。当院院長は最新の治療に対する医師向けの講演会の発表も行っており、積極的に治療を行っております。
アトピー性皮膚炎の原因
遺伝的要因
家族にアトピー性皮膚炎、喘息、花粉症などのアレルギー疾患を持っている人がいると、発症するリスクが高くなります。
皮膚のバリア機能の低下
皮膚が乾燥しやすいと、外部の刺激物質が入り込みやすく、その結果、炎症が引き起こされます。日本人の約10人に1人はフィラグリンという皮膚の保湿に関与している重要なタンパク質が低下していることが知れていて、その場合、アトピー性皮膚炎になりやすことが考えられています。
環境要因
ダニ、花粉、食べ物のアレルギー、ストレスなどがアトピー性皮膚炎を悪化させることがあります。
タイプ2炎症
最新の研究により、アトピー性皮膚炎の病態には、免疫系の異常、特にタイプ2炎症が関与していることがわかってきました。これは、Th2細胞(2型のヘルパーT細胞)や2型の自然リンパ球が中心となり、IL-4、IL-13、IL-31などのサイトカインが過剰に産生されることで起こります。これらのサイトカインは、免疫反応を引き起こし、皮膚のバリア機能を低下させ、炎症やかゆみを増強します。タイプ2炎症は、アトピー性皮膚炎の特徴的な症状である慢性的な湿疹やかゆみの原因となっています。
アトピー性皮膚炎の症状
アトピー性皮膚炎は、ほとんどの場合、赤ちゃんのときに初めて症状が出ます。特に生後2〜6ヶ月の間に発症することが多いです。ただし、思春期や大人になってから初めて症状が出ることもあります。また子どもの頃に一度症状が軽くなっても、大人になってから症状が再びぶり返してくる場合もよくあります。
乳児期(生後2ヶ月~2歳)
乳児期のアトピー性皮膚炎は、通常、生後2~6ヶ月の間に初めて現れます。この時期には、顔、頭皮、首、手足の伸側(外側)に赤くただれた湿疹が現れます。湿疹は悪化すると浸出液を伴い、かゆみが強く、赤ちゃんは頻繁に掻くため、皮膚が傷つきやすくなります。特に頬や額に症状が集中することが多く、乳児湿疹と診断されている症例もありますが、乳児湿疹と診断されたうちの何割かは実はアトピー性皮膚炎だと言われていますので、単なる乳児湿疹と考えずに専門医に診てもらうようにしましょう。
幼児期(2歳~小学校入学前)
幼児期になると、湿疹の部位が変わり、肘の内側や膝の裏側などの屈側(内側)に現れることが多くなります。ざらざらとした痒みがある赤い湿疹で、症状が強くなると皮膚が厚く硬くなる(苔癬化)ことが特徴です。湿疹は、かゆみが強いため、掻きむしり、皮膚のバリア機能がさらに低下します。
学童期(小学校入学後~思春期)
学童期には、湿疹はさらに局所化し、肘や膝の屈側に加え、首、手首、足首に多く現れます。夏の時期は汗がたまって、それが引き金になり悪化する事が多いです。冬は乾燥が原因で悪化しやすく、かさぶたやひび割れを伴うことがあります。皮膚は、硬く、赤黒くなってくるため、見た目にも影響を及ぼします。また強いかゆみが続くため、夜間の睡眠障害や集中力の低下(学業への影響)が見られることもあります。
成人期(思春期以降)
成人期のアトピー性皮膚炎は、学童期の症状が続く場合もあれば、新たに発症することもあります。湿疹は主に首、顔、上半身、手に現れます。成人の湿疹は、より慢性的で、硬く厚い苔癬化が特徴です。また、顔の赤みや、特に眼周囲や口周りの乾燥、ひび割れが見られることがあります。痒みからストレスを引き起こし、またそのストレスから痒みが悪化、引っ掻いて湿疹が悪化する負のサイクルとなり生活の質に大きな影響を与えます。
アトピー性皮膚炎の検査・診断
1問診
症状の経過や家族の病歴、生活環境について詳しくお聞きします。
2視診と触診
皮膚の状態を見て、湿疹の場所や程度を確認します。
3アレルギー検査
血液検査を行い、アレルギーの有無を調べます。生活するうえで特に何に注意をしたらよいのかがわかります。
4その他の検査
必要に応じて、皮膚の一部を取って調べたり、血液検査で炎症の指標を測ったりします。
アトピー性皮膚炎の治療
アトピー性皮膚炎の治療は、症状を和らげることと炎症をコントロールすることが目的です。治療法は症状や状態によって異なります。以下は主な治療法です。
保湿剤
皮膚の乾燥を防ぐために、日常的に保湿剤を使います。これにより、皮膚のバリア機能を強化し、炎症を予防します。ただし、すでに炎症の起こっている皮膚に対しては効果がありません。
外用療法
アトピー性皮膚炎にとって、最も重要な治療方法です。
ステロイド外用薬
1950年代に登場した薬で、昔も今も変わらず炎症を抑えるための第一選択となる薬です。ステロイド外用薬については、かつてステロイドバッシングいった間違った情報が流れたがために、アトピー性皮膚炎が悪化する患者さん達が続出するといった混迷期がありましたが、2020年以降の現代においてもなお治療の主役であり、長い歴史をもったお薬です。もし本当にステロイド外用薬が人体にとって悪い薬ならば、とうの昔にこの薬が市場から消えているはずですが、今も主力の薬であり、長期的な有効性や安全性もわかっている薬ですので、むしろ安心できる薬とも言う事ができます。ステロイド外用薬はステロイド内服薬と異なり副作用が少ない事が特徴で、炎症部位にダイレクトに薬を効かせることができる点が非常に優れています。局所的な副作用として、皮膚が薄くなる、血管拡張(血管が開いた筋状の赤み)、ニキビ、酒さ様皮膚炎(赤ら顔)などがありますが、正しい期間、正しい強さのステロイド外用薬を処方いたしますし、万が一副作用が出た場合などはほかの治療法も提案いたしますので、安心して治療を受けて頂けたらと思います。ステロイドを外用すると黒くなるという誤解もありますが、これは赤みを持った炎症が治る過程で一時的に茶色い色素沈着になって治っていくのですが、外用をすることで早期に改善するため、この反応がすぐに表れて、茶色くなったと勘違いされて言われたものです。治る過程での色の反応ですから、しっかりと炎症が収まれば色は薄くなりますのでご心配はいりません。
タクロリムス軟膏
異常な免疫を抑制する外用薬です。具体的にはT細胞や肥満細胞から放出されるサイトカインを抑制する作用があります。上述のステロイド外用薬は5段階に強さが分類されていますが、下から2番目くらいの強さに相当します。使用開始して1週間ほどは、外用部位が少し熱く火照ったような感覚が出ますが、次第に慣れていきます。皮膚の炎症部位にのみ薬が到達し、正常の皮膚には薬が到達しない点が特徴です。
コレクチム軟膏
新しい外用薬です。この薬剤は、炎症を起こしている細胞の表面にある受容体に付随しているJAKという部位を阻害する事によって、炎症のシグナルをブロックするお薬です。現在、後述するようにJAKを阻害する内服薬も登場しております。1日2回外用します。ステロイド外用薬のような即効性はありませんが、継続する事で有効性が確認されている薬剤です。副作用は少ないお薬ですが、顔面に使用した場合、ニキビが出現する可能性があります。
モイゼルト軟膏
新しい外用薬です。ジファミラストという有効成分が、炎症を起こしている細胞内のPDE4活性を抑制する事により、炎症性メディエータを鎮める作用があります。1日2回外用します。ステロイド外用薬のような即効性はありませんが、継続する事で有効性が確認されている薬剤です。特に小児のアトピー性皮膚炎での有効性が高く、また副作用もほとんどない点が優れているお薬です。
抗ヒスタミン薬
アトピー性皮膚炎に関与する痒み物質は様々ありますが、そのうちの一つをブロックする薬です。そのため、この薬のみで完全に痒みを抑える事はできませんので、外用薬を主体とした併用療法として使用いたします。
光線療法(エキシマ)
紫外線のうち一定の波長を皮膚に照射する事により、炎症を抑制する事ができます。当院では保険適応で、炎症部位にピンポイントにエキシマを照射する治療を行っています。照射部位は日焼けをしたような赤みが出るリスクがありますので、はじめは少ない照射量から始めて、皮膚の反応を見ながら照射量を上げていきます。通院しながら繰り返し照射を行っていきます。エキシマ照射は短時間(一か所あたり数秒)で終わりますし、少し温かい感じがする程度です。
全身療法
最近では、生物学的製剤やJAK阻害薬といった新しい薬が登場し、これが非常に効果的であることがわかっています。これらの薬は、アトピー性皮膚炎の原因となる炎症細胞からのサイトカインをブロックしていくことにより炎症を抑えます。
生活習慣の改善
ストレスを減らすこと、正しいスキンケアをすること、アレルゲンを避けることなども大切です。
アトピー性皮膚炎の
最新治療ってどんなお薬?
当院では日本皮膚科学会の定める診断基準と治療指針を遵守しております。最新の治療は難治であった患者様達にとって光となる治療です。しかし、その一方で、誰でもが受けられる治療ではありません。まずは皮膚科専門医のもと、症状に合わせた通常の外用療法から開始して、それでも改善が見られなかった患者さんで、医師が必要と判断した場合に限り受けることができる治療です。従いましてこの治療のみを希望される場合は適応とならないことをご理解ください。
生物学的製剤
デュピクセント
(デュピルマブ)
デュピクセントは、インターロイキン-4(IL-4)およびインターロイキン-13(IL-13)という2つの炎症性タンパク質(サイトカイン)の働きを抑えることで効果を発揮します。これらのサイトカインは、アトピー性皮膚炎の炎症反応に深く関与していることがわかっています。デュピクセントがこれらのサイトカイン受容体に結合することで、炎症の連鎖反応を遮断し、皮膚の炎症やかゆみを軽減します。また、睡眠の質や生活の質も向上していきます。成人のみならず、生後6カ月以上の乳児、小児にも適応があります。当院では少なくとも1年間は投与を継続する事を推奨しています。アトピー性皮膚炎のみならず、痒疹や難治な蕁麻疹にも適応があります。
投与方法
皮下注射で投与します。成人の場合は初回は2本(600mg)投与し、その後は2週間ごとに1本(300mg)を投与し、継続していきます。初回と2回目は当院で投与を行い、その際に自宅で自分で投与できるように指導いたします。小児の場合は体重により投与量や投与間隔が異なりますので、必要な患者さんにはご説明いたします。
副作用
注射部位の反応(赤み、腫れ、痛みなど)、結膜炎などがあります。これらの副作用は一般的に軽度で、一時的なものが多いです。目の症状が出現した場合は当院で点眼薬を処方し対応いたします。長期的な安全性のデータがある薬剤であることが特徴です。
イブグリース
(レブリキズマブ)
2024年に登場した新しい注射薬です。インターロイキン-13(IL-13)というサイトカインの働きを抑えることで効果を発揮します。薬効の持続期間が比較的長いのが特徴です。12歳以上の患者さんに投与が可能です。
投与方法
皮下注射で投与します。初回と2回目は2本ずつ投与し、その後は2週間ごとに1本を投与し、継続していきます。症状の改善が顕著であれば4週間ごとの投与も可能な薬剤であることが特徴です。まだ新しいお薬ですので、通院のうえ当院で投与を継続していきます。
副作用
注射部位の反応(赤み、腫れ、痛みなど)、結膜炎などがあります。これらの副作用は一般的に軽度で、一時的なものが多いです。目の症状が出現した場合は当院で点眼薬を処方し対応いたします。
ミチーガ(ネモリズマブ)
ミチーガは、インターロイキン-31(IL-31)というサイトカインの働きを抑えることで特に痒みに効果を発揮します。IL-31は、アトピー性皮膚炎の特にかゆみや炎症に関与しており、ミチーガがこのサイトカインの受容体に結合することで、炎症の連鎖反応を遮断し、症状を軽減します。つらい痒みが改善することで、睡眠の質や生活の質も向上することが期待できます。6歳以上の患者さんが適応となります。
投与方法
4週間に1回、皮下注射で投与を行い、継続します。基本的にはクリニックで投与いたしますが、希望がある患者さんは自宅で自分で投与できるようにご指導いたします。
副作用
ミチーガの副作用には、注射部位の反応(赤み、腫れ、痛みなど)、頭痛、鼻咽頭炎、疲労などがあります。これらの副作用は一般的に軽度で、一時的なものです。
JAK阻害薬(内服)
JAK阻害薬とは?
JAK阻害薬は、Janusキナーゼ(JAK)という酵素の働きを抑える薬です。JAKは、体内での炎症反応に関与するシグナル伝達経路において重要な役割を果たします。アトピー性皮膚炎では、免疫系が過剰に反応し、JAK経路が活性化されることで炎症が引き起こされます。JAK阻害薬は、この経路をブロックすることで、炎症を抑え、症状を軽減します。前述の生物学的製剤は特定のサイトカインをピンポイントにブロックする注射薬であったのに対し、JAK阻害薬はアトピー性皮膚炎に関連する複数の炎症部位を幅広くブロックする内服薬である事が特徴です。臨床試験では、JAK阻害薬を使用した患者さんの多くが症状の大幅な改善を報告しています。特に、かゆみが早期に劇的に減少し、その後、皮膚の赤みも改善していきます。また、JAK阻害薬は内服薬であるため、注射が苦手な方にも適しています。さらに、従来の治療法に比べて速やかに効果が現れることが多く、生活の質の向上に寄与します。生物学的製剤で効果が不十分であった患者さんがJAK阻害薬に切り替えて改善する場合もあります。
JAK阻害薬の種類
- オルミエント(バリシチニブ)
JAK1,2を阻害します。2歳以上に適応。 - リンヴォック(ウパダシチニブ)
JAK1を阻害します。12歳以上に適応。 - サイバインコ(アブロシチニブ)
JAK1を阻害します。12歳以上に適応。
これらの薬剤はすべて当院で採用しております。
副作用
一般的な副作用としては、上気道感染症、帯状疱疹の発症リスクがあります。また、リンヴォックはざ瘡(にきび)、サイバインコは消化器症状の副作用がでることがあります。まれな副作用として、悪性腫瘍、消化管穿孔、血栓症(肺血栓塞栓症、深部静脈血栓症)、血球減少などの報告がありますので、定期的な診察と検査をおこないながら投与を行っていきます。
治療上の注意
- 定期的な診察:定期的に医師の診察を受け、薬の効果や副作用の有無を確認しましょう。
- 感染症の予防:免疫力が低下する可能性があるため、感染症の予防に努めましょう。帯状疱疹やインフルエンザの予防接種も検討してください。
- 妊娠・授乳中の使用:妊娠中や授乳中の方は、投与を行うことができません。
アトピー性皮膚炎の
スキンケア方法について
保湿剤と抗炎症外用薬
アトピー性皮膚炎のほとんどの方は乾燥肌がベースにあるので、保湿は重要となります。入浴後の肌がまだ湿っているうちに、保湿剤を使用することで、水分を閉じ込め、皮膚のバリア機能を強化します。ただし、すでに炎症を起こしている部位に保湿のみをしていても炎症はおさまりません。最近は「かくれ炎症」という概念があり、一見乾燥しているだけのように見えている部位にも、実は皮膚の下では炎症が起きている、という事がわかっています。ですので、明らかに炎症を起こして赤みがある部位はもちろんですが、乾燥が進んで皮膚がざらざらしている、痒みが出てきている部位にはステロイド外用薬や、その他の抗炎症外用薬をしっかりと塗布していく必要があります。
適切な量について
しっかりと十分量を外用しないと治癒に導くことは難しいです。適した外用量とは、1FTU(フィンガーチップユニット)を目安にします。これは、チューブで軟膏を押し出した際に、人差し指の指先から第一関節までの間に乗る量のことで、大人の場合、手のひら2枚分の面積の病変を外用するのに必要な量となります。例えば、手のひら10枚分の病変があるとすると、1回に必要な量は5FTUとなります。また、外用した部位にティッシュペーパーを乗せた場合、そのティッシュが肌に張り付いてすぐに下に落ちない量も適量になりますので、これも目安になります。
塗り方について
薬を患部に乗せ、指の腹を使って優しく円を描くように広げます。強くこすらず、均一に広げることがポイントです。外用の範囲が広い場合は、一か所に全部に乗っけてそれを塗り広げるのではなく、複数の箇所に少量ずつ薬を乗せて塗り広げるとムラなく均一に塗布できます。症状が強い場合は、外用した後にガーゼをのせ、その上から包帯を巻いて患部を保護する方法もあります。